「芸術家のくすり箱」が何故、公開起業オークションでの5分間のプレゼンテーションで、232口もの支援を獲得することができたのか。その成功の要因を分析すると、興味深い点が浮かび上がります。

芸術家のくすり箱の代表である、福井さんにお伺いした内容から、私なりに成功要因のキーとなっていると感じたのは次の4点です。

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「芸術家のくすり箱」というネーミングは、とてもセンスが感じられ、活動をうまく表現している名前となっていますが、そもそも芸術家のヘルスケアを多角的にサポートする活動というのは、5分間できちんと理解してもらいにくい活動であるともいえます。そのため、実際のプレゼンテーションに際しては、どうやって分かりやすく伝えるのかをかなり悩まれたそうです。実際には、細部はハンドアウトにまかせて、理念の部分と、これにより芸術界の何が変わるのか、社会に何を変えたいのかを中心に話をしたそうです。多くのNPOが自らの活動を説明する際に、ともすれば、「困っている人がいるから」「この活動は、必要だから」という説明ぶりになりがちですが、この活動により、「何が変わる(何を変える)のか」を中心にメッセージを発するということは、改めて重要であると感じました。また、代表の福井さん自身、この活動のコンセプトについて長いこと考え、自分の中で確信となっていたことからくる、「メッセージの強さ」も忘れてはならない要素だと思います。

聴衆の価値観と活動の価値観をシンクロさせる表現を用いる
WWBジャパンの公開起業オークションの参加者は、必ずしも芸術界をなんとかしようと常日頃思っている人々の集団ではありません。あえて言えば、「社会起業」を通じた社会変革に関心のある人々であるといえるでしょう。そのため、プレゼンテーションに際して、「芸術家とは、命を削って、魂を込めて、新しい価値観を生み出したり、生きる勇気を与えたりすることを託された人」と定義づけて話をするようにしたそうです。このフレーズは、社会起業に関心のある聴衆にとって、「芸術家=社会起業家」というような置き換えを可能とする効果があったと思われます。

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WWBジャパンの公開起業オークションでは、起業志望者が、目標口数を予め宣言し、その目標口数が集まらなければ、支援がもらえないというルールになっています。「芸術家のくすり箱」の場合、120口という目標設定(一年前のオークションでの最高の例は5000円の会員券32口)を行ってオークションに臨んでいます。この高い目標設定が、逆に、参加者に、「自分が応援しないとこの目標は達成できない」という心理状態にさせたという側面はあると思います。ちょっと違う例ですが、時々TVでも紹介されていますが、「心臓移植などで、子どもがアメリカで手術を受けるので、1億円必要です。」ということで行っている募金キャンペーンがありますが、こうした移植手術費キャンペーンでは、2週間で1億円を遥かに超える額を集めることもあるようです。ここで共通しているのは、^豸実現が困難そうなくらい高い目標設定、¬槁犬実現できなかったときの結果が明らかである(公開起業オークションでは、起業志望者は1円も受け取れず、移植手術費キャペーンでは、それこそ生命の危機があります)の2点にあると思います。高い目標設定と、それを実現できなかったときの影響が明確になることにより、「自分が支援しなきゃ」という心理状態に潜在的支援者になってもらいやすいということはあるように感じました。

更に、高い目標設定をする場合、それを「一か八か」の賭けにするというのではなく、事前準備の中で、少しでも実現可能性を高めていく地道な努力が必要です。「芸術家のくすり箱」の代表の福井さんの場合、3年くらい前から、すこしづつ「この人は尊敬できる・面白い・何かありそう・気になる・切らさないようにしたい」と感じた人について、データベースにストックし、そのストックした300人くらいの人びとに対して、オークションに出ることを事前に案内するということも地道に行っています。そうしたこともオークションでの成功に繋がっているといえるでしょう。

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WWBジャパンでのプレゼンに先立ち、週末の起業実践講座で企画を練り、その講座の同期生の間でプレゼンの練習も行ったそうです。当初のプレゼンの内容は、少ない持ち時間を有効に活用することを目指し、活動プランの中身をシステマティックに、論理的に話すことに注力していたそうです。しかし、そこで、何度も「何故あなたがそれをやりたいのか?」ということを問われ、自分史を混ぜるように言われたそうです。結局、本番のプレゼンでは、9歳のとき、何故このような領域に興味を持ったかという個人的なきっかけを盛り込んだり、「私はこう思う」という部分を入れたりしたそうです。
 福井さん曰く、「人は5分間の話の中では、理論よりも人間のストーリーに反応するものだ、ということを痛感しました。」

こうした公開起業オークションを通じて、「芸術家のくすり箱」が得れたものは、232口の支援や人的サポートだけではありません。例えば、「記録的な支援を獲得した」という事実が、新興団体である「芸術家のくすり箱」にとってのひとつのブランド・エクイティとなっているという点も忘れてはならないと思います。また、5分間のプレゼンテーションで多くの人の心をつかんだという実績(成功体験)も、その後の様々な人々とのコミュニケーションで活きて来る経験なのだろうと思います。

この活動にご関心のある方は、http://kusuribako.exblog.jpまでどうぞ。